怪人と僕

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 生憎とこちらの球技について詳しくないので、それが何の競技に使われるものとは知れないが、にしたって、こんな時間に、あんな場所にボールが転がっているというのは不自然極まる。  自分勝手に動き回るボールを扱う競技を聞いたこともなければ、こんな夜半にまで練習熱心な学生などいるはずもない。いや、そんなことなどどうでもいい。自分勝手に動き回るボールを扱う競技があろうが、こんな夜半にまで練習熱心な学生がいようが、そんなことは全然まったくどうでもいい──誰かがボールを投げたのなら、周囲に人影が、ないはずがないのだ。  見渡す。  人影はない。    何かの拍子に転がったのか。いや他に用具など散らばっていない。街灯の向こうはフェンスになっていて、木々はそのさらに向こう側。木々にボールが挟まっていたとしても、フェンスを乗り越えてボールが入ってくるなんてことはまずあり得ない。なによりボールは──校舎側から街灯方向に向かって転がっていた。風でないとしたら、あのボールが街灯の下まで転がるような要因も、その出所も──どこにもない。
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