怪人と僕

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 『なくならないボール』。  怪人が遊んだ痕跡。  怪人が、友達になってくれそうな人にアピールをするための、パフォーマンス。  ──ならアレは、誰に対してのアピールだ? 「あ……、の」  見間違いの可能性も捨てきれない。こんな時間だ、寝ぼけて、夢うつつに妄想してしまったのだ。そうに決まっている。  僕はチャンタクさんに声をかけようとする。しかし言葉が出てこない。喉の奥で詰まる。言葉が出てくるのを拒んでいる。わかっているのだ。どんな言葉で取り繕おうと、上書きすることなどできない。事実が厳然と、目の前に横たわっている。  だが言葉は不要だった。  ──チャンタクさんもまた、グラウンドで起きた異変を視認している。見開かれた双眸が、僕が出したのと同じ結論に辿り着いていることを示唆させた。しがみつかれた腕が、痛いまでに、食い込む。
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