怪人と僕

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 帰りたい。  心の底から帰りたい。  見栄を張った手前、ここで帰るわけにいかないのは勿論だ。でも正直、怪人とかめっちゃ怖い。ガクブル。だって幽霊もどきがいる世界だもの、怪人のひとりやふたりいるよ普通に。なんだよ《絶命言》て。なんだよ耳元で囁くって。そんなもんで怪異に勝てるか。  もし変なやつに会ったら、ダッシュで逃げよう。僕にできるのはそれしかない。重心を後ろに置き、踵を浮かせ、抜き足差し足、逃げる体勢万全に、僕は体育館の前にたどり着く。  グラウンドには体育館から出られる。元々の目的地だったから、もう目と鼻の先まで来ていたので、体育館までは然程時間を要することはなかった。それだけ心の準備が整わなかったという反面もあるけれど。 「よしっ、開けるぞ」  扉に手をかける。  そういえば怪人ってグラウンドだけじゃなくて体育館にも出るんだったよな。少し扉を開けてから僕はそのことに気がついた。  ──物音がする。 「あれ、何してんのこんなとこで」  幽霊もどきが普通にいた。
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