怪人と僕

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 テテさんは50年近い年数を生きている。いや、生きているというのも微妙なところだけれど。  精霊なるものは魔力と概念の集合体であって、彼女もまた肉体を持たない。本来の姿は人形(ヒトガタ)ではなく虫である。彼女は虫である時分に、尋常ならざる魔力を持ち、そして肉体を超越して顕現することを可能にした、とってもすごい存在なのだそうだ。  しかし心や魔力に強いダメージを受けると、状態として一番安定している虫である本来の姿へと戻り、心を休める。  というわけで。 「ひどいよ、女の子をいきなり生まれたままの姿になんてしちゃってさ、ヨーイチは獣(ケダモノ)だねっ。女の子を扱うときはもっと丁寧にって常識だよ」  恥ずかしがり前足をくるくるさせる、二足歩行する奇怪な虫を、僕は手のひらに乗せていた。  どうやらテテさん的には、本来の姿を見せるのは恥ずかしいことなのだそうだ。あの変化した姿は、気分的に服に該当するらしい。
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