怪人と僕

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 僕は左手の人差し指を立てると、上目使いらしきものでこちらを見る虫めがけて──おもっくそ突き刺した。  会心の一撃。  と思ったが、指の下から声がした。 「あれえ!? おかしいなあ! ここは獣のように襲いかかる所じゃない!?」  テテさんは、辛うじて僕の指を受け止めていた。かなりギリギリのところで踏ん張っているらしい。ひねり出されたような、嗚咽にも似た声が、そのギリギリ加減を表していた。  相手は虫だが。 「いや思ったより虫の存在感が大きかったんで、なんかイラッとしました」  僕は端的に答える。  きっと虫じゃなかったら危なかったかもしれないとは……、まあ思わなくもないけれど、だって虫だもの。こんな虫に興奮できるやつがいるとすれば、僕の知る限りでは一人しか知らない。やっぱりお似合いだよ君ら。
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