怪人と僕

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 第一襲いかかるって何をどうしろと。人形(ヒトガタ)であれば、もっと具体的かつ明瞭に、その所作が現れたかもしれないが、相手は虫だからね。スケールからまず無理だろ。  というか、襲うっていうなら、ある意味これも正解なんじゃね? 強襲したわけだし。よしならばさらにご要望にお応えしよう。僕的にはだね、もう少しハードなのがお好みだ。うむ、最初の一撃は軽めだったから受け止められたと見える──僕は指にさらに力を込める。 「ふんごおおおお!」  指の下からは、女性のものとは思えない、野太い怒声が放たれた。ギリギリを超えて、内なる力に目覚めたのかもしれない。 「あんっ」  気が抜けた声がして──指と手のひらが接触した。  ……え? 嘘? 「まさかね……」  指を支えていたはずの力が失われなければ、そして間を埋めていた物体そのものの形状が失われなければ、指と手のひらが接触することはない。  すなわちこの指と手のひらの間にありはずのものが限りなく平らに──テテさんがぺっちゃんこに潰れていなければ、こんな風にはならない。
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