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僕はおそるおそる指をどかした。
「……あれ?」
なんにもない。
いつも通りの僕の手のひら。生命線が短い。指のところも見てみたのだが、虫の死骸どころか、破片さえもない。潰れたのではないとすれば、一体全体テテさんはどこにいってしまったのだろう。
何らかの手段を用いて脱出したと考えるべきか。
と、妙な音に気がついた。
ぶーん。
「もう、まったく君は」
テテさんの声。やっぱり脱出していたようだ、よかった。
しかしどこにいるのだろう。安堵と同時に、その妙な、苛立ちを禁じえない音が近くから聞こえてくるようで落ち着かない。夏になるとよりいっそう鬱陶しい、気配がするだけでなんだか気になってソワソワしてしまう、そんな厄介な音。
「精霊って言ったってね、死んじゃわないとも限んないんだからね。そういうのも大概に──」
パン!
視界の端にとらえたそれを、僕は条件反射的に、左右から両の手で挟み込んだ。
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