怪人と僕

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 一方的に進められる冗長めいた文言。楽しげである。  視界もないままに、僕は立ち尽くしていた。なんとか前に進もうと足を一歩踏み出したら、その一歩目で脛をぶつけた。真ん中縦一列に花壇があったことを、僕はそこでやっと思い出した。僕の記憶力と判断力のなんと鈍いことか。なんとか少しずつ足場を確かめながら迂回しつつ、僕は声の主に接近する。 「そんな世界が私は大好きでね」  声の主は言った。  そして。  ああ、ただひとつ言っておかなければならんな。  と続けた。 「『夜』とはあくまで装飾に、脚色にすぎない。すべてはまやかしで、本来あるべき姿とはかけはなれている。欺瞞と偽証の上にのみ成り立っている虚構の賜物だ」  そして。 「それにも程度がある。ベクトルがある。前向きにのみ進むこともあれば後ろ向きにも進み、肥大だけでなく萎縮もする。夜とはある種の増長作用のようだ」  ゆえに。 「感状の傑出に伴って──ヒーローやヒールといったものが際立つ」
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