怪人と僕

48/58
前へ
/739ページ
次へ
 わからなくもない。  朝方に頑張るヒーローなんてのも、まあ健全で悪くはないが、真っ昼間に頑張られても暑苦しくて敵わない。夕方は別離と哀愁に誘われ、とどのつまり夜こそが、なにがしかの、悪意や善意といった意思が勢いづくに、適していると言えなくもない。  若干悪意に分があるような気もするけれど。  なんにしても、気分の問題だろう。朝方に敵が出たらヒーローだって朝方に敵を倒すし、昼間に取引があれば悪人だって昼間に悪事に勤しむさ。まあ先程の論理からして、人々の欲望が増大する夜こそが、そういった善意や悪意が露見しやすくなるのかもしれないが、どちらにしたって、やはり気分や心持ちの問題だ。作業効率や機会損失を考慮しなければ、夜にだけ働くヒーローというのも、ままあってもいいことだ。  なんて、僕が存否を決められるわけじゃないのだけれど。でも、仮に、そういった夜にだけ働くような、ヒーロー然とした何かを想像するとしたら──義賊だとか何とか言われたりするような、美学を凝り固めてこじらせたような、そんなものが思い浮かぶ。  動転していたからだろうか。誰とも知れぬ相手の、なんだかよくわからない言葉に、僕は律儀にもそんな考えを巡らしながら、一歩ずつ声の主に近づいた。
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加