怪人と僕

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 影ひとつ。チャンタクさんの可愛らしいお姿があれば、たとえシルエットだろうと見抜いてみせる。だが、周囲に他の姿らしき影はない。  おかしいな、だとするとチャンタクさんはどこへ行ったのだろう。とりあえずチャンタクさんを見かけたかどうかだけでも、尋ねたいところ。だが正真正銘『屋上の怪人』なら、急いで退散したいところ。  周囲や、相手の動向を確認しながら着実に、何らかの逆鱗に触れたり、余計な物音を立てぬよう気を付けながら、僕はおっかなびっくり前に進む。  その間も声は雄弁に。  雄弁と言うよりは、多弁とか饒舌に近いのかもしれないが。  それにしてもだ。屋上に現れるという怪人は、身の丈が大きいという噂だった。けれど案外そうでもない。いや、まだ相手が屋上の怪人であると決まったわけではない。なにより噂そのものが変容した可能性も捨てきれない。  しかし、こんな夜中に出歩いているような不審者がいるとすれば、僕たちのようなお調子者か異質なものか、そのどちらかだ。まあ学内夜間侵入というペナルティの危険を冒してまで、こんな屋上に来たがる馬鹿がいるとは思えない。できれば前者であってほしいところだが、十中八九の確率で、そうであってほしくないほうの答えであることに、疑いの余地はないようである。
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