怪人と僕

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 大きくもない。子供を拐いそうもない。しかし間違いなく『屋上の怪人』。怪人の雰囲気はまったくない。ただ純然と怪しさは満点。なんなんだろう、この人は。  続けて何かを話し出さんとする声の主に向かって、遮るように僕は言った。 「僕はこの学校の生徒のヨーイチ・シガラキと言います。あなたはいったい……何者ですか」  もし言葉が通じるなら話は早い。聞いてしまえばいいのだ。思考するまでもない明瞭な答えがそこにあるのに、馬鹿馬鹿しくも推察なんてしている暇はない。 「私かい? 私は」  言葉が通じるという予想は、言語が同じだった時点で予想はできたわけだが、返事があるかは五分だった。だが意外にもあっさりと、声の主は質問に反応をみせる。  僕は身構える。  子供を拐う大きな化け物。  屋上の怪人。  噂とは違ったが、ならばいったい何者なのか。 「ヒーローさ」  大きいのは態度だった。
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