怪人と僕

52/58
前へ
/739ページ
次へ
 自称ヒーローは謎の名を名乗った。  僕が怪訝な雰囲気を醸し出していたのに気づいてか、自称ヒーローは釈明する。 「すまない、名乗りたくないわけではないのだ。ただ易々と名乗っていい名ではなくてね」  名前に、易々と名乗れないことなんてあるのだろうか。あるとすれば、それこそあまり名前受けしない、怪異に属するそれだったりするのか。それとも、犯罪行為が露見した時に名前が割れないようにという保険か。  僕はさらに怪訝に影を見る。 「はっきり名乗ると色々厄介と言うべきか。おほん、サインとかせがまれちゃったら困るものでね」  なんだかそわそわしているような気がするのは、果たして気のせいか。  どうにも要領を得ないが、この軽薄さ。そして警戒心のなさ。怪異でないとしたら、チャンタクさんとは関係ないのか?  ところで。  サインって何だ?  もしかして有名人なのかな。  先程の呼称一覧で、もしかしたら気がついていなければならないような、そんな感じだったのかもしれない。あれは彼なりの、暗に示したネタバラシだったとか。  残念ながら、僕はそんなに世界に興味がね。  僕がまだ気がついていないとわかったらしく、改めて自己紹介をする。 「しょうがないなあ、自分で言うのも恥ずかしいのだが……、最も一般的な呼称で言うところでは、《キール六世》と言っておくべきかな」 「存じ上げませんが」 「え゙!?」  いま、『え』に濁点をつけたような反応をされたような。 「いや、あの、ほらキール六世だよ? 代々のほら、有名な」 「ゴシップには疎いもので」
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加