怪人と僕

53/58
前へ
/739ページ
次へ
 謝る僕。  慌てる影。  その距離はもう手の届くほどに近い。 「キール六世ですか……、ええっと、どこかで聞いたことがあるような……、あ」 「やっと思い出したかい。そうだよ、あの稀代の」 「髭男爵のルネッサンスの方の」 「違う」 「ドラえもんズのヘビ使いの」 「違う」 「石田純一の息子の」 「違う、っていうかもう態と間違ってないかいそれ?」  さすがに僕が言ったのが誰とはわからなかったみたいだが、言ってほしい肩書きとは明らかに違ったらしい。  弱ったなあ、と影は言う。  これでも違うとなると、いよいよ謎は深まるばかり。キール六世。聞いたことも見たこともない。まあそれは、先刻に自白した通りに僕がこちらの情勢に疎いだけなのだろう。  だが問題はそこじゃない。問題は──屋上の怪人とは無関係なのかどうかだ。 「はあ……本当に知らないようだね」
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加