怪人と僕

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 愕然と、影は肩を落とす。  いや。  と首を振る。 「人のせいにしてはいかんな。知名度の如何は、私の力量のそれだ。私にまだ力が足りないのだな、粛々と受け入れようじゃないか」  自己完結する。  えらくポジティブというか、肯定的な人間のようで。 「すみません知らなくて」 「いいのだよ、知らないことは誰にでもある。知らないならば、これから知ってもらえばいいだけのこと」  なんだ。  いい人じゃないか。  まあでも、怪しいことと異質なことには変わらないけどさ。  影は高らかに。 「私はキール六世、由緒正しき血統と、由緒正しき歴史を持つみんなの憧れ──『怪盗』だ」  怪盗。  ヒーロー。  丁寧にも予告状を出したり。  貧しい人に金をばら蒔いたり。  とかく世間を騒がせる、警察やら政府やらにとっての目の上のたんこぶで、そして民衆の味方。  ただの泥棒には興味ありません。
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