怪人と僕

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 なにやらカッコよさげなポーズを決めて、影は見得を切っていた。両手を高く持ち上げ、飛翔する猛禽のように雄々しく。  屋上の怪人は、『怪人』ではなく『怪盗』だったというのが、どうやらオチらしい。  誰がどう伝え間違えたのか、怪人と怪盗では、概念からがまったくの別物じゃないか。 「じゃあ、チャンタクさんがどこへ行ったのかなんて知りませんよね」 「え、ああ、知らないけど……『怪盗なんですか!凄いですね!』とか言ってくれないんだ」  持ち上げた手から力が抜ける。  別に僕は、屋上の怪人がどうとか、八不思議がどうとかなんて、さしたることじゃない。そんなことより人探しが最優先で、屋上の怪人だろうが屋上の怪盗だろうが、知らないのなら用はない。  僕は体を反転させる。  屋上の怪人改め屋上の怪盗には悪いけれど、別段興味もなければ利益もない。残念ながらこれ以上の会話に生産性は見出だせない。
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