怪盗と僕

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 屋上。  入り口側から向こうの端まで、真ん中に一列、花壇が並んでいる。名も知れぬ鮮やかな花々が、殺風景な屋上に彩りを添えていた。  こちらには定まった四季という節気はないようだが、花壇を鮮やかに染め上げた誰それの見立てでは、もうそろそろ春近いのだろう。  だがやはり、まだ少し風が肌寒い。  ベンチに座り、弁当を食べながら、僕たちは昨日のことについて話し合っていた。 「キール六世、言わずと知れた悪党だ」  僕の弁当から勝手に唐揚げを持っていって口に含むと、マルミラは指を舐めながら言った。 「はん、勤勉な野郎だ。昨日も一件、快刀乱麻を断つがごとくに怪盗行為に勤しみやがった。銀行から紙幣が盗まれたそうだぜ」  もごもごと、ところどころ不明瞭ではあったが言いたいことは伝わった。快刀乱麻の使い方は間違っていたけど。
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