怪盗と僕

4/24
前へ
/739ページ
次へ
 マルミラには知っていることにしておいたが、僕は《キール六世》という人物についてまったく知らなかった。  帰宅したあと、案の定すべてを見知っていた魔女からいくつか詳細を聞かされて、怪盗キール六世がどれほどの知名度と人気を博していたのか、そのスペックの高さなんてのを、そこでやっと理解した。にしても、あれほどの有名人を知らなかったというのは、自分がいかにやる気なかったのか、思い知らされるところである。 「あいつって、誰にでもなれるんですよね?」  誰にでもなれる。  変装の名人。  擬装の達人。  ゆえに、怪盗。  しかもだ。 「今まで、ただの一度も正体を見破られたことがない」 「ああ、アタシをもってしてもわからねえ。本人が、『自分がキール六世』だと名乗りでもしない限り、絶対にわからねえんだよ。まったくやってらんねえよな」  卵焼きを噛み締めながら、マルミラはふて腐れる。
/739ページ

最初のコメントを投稿しよう!

872人が本棚に入れています
本棚に追加