怪盗と僕

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 顔形を変えるくらいのこと、一流の人間にとって当たり前のステータスだ。あまり褒められたことではないが、ストーカーが趣味の友人なんかは、似たようなことを造作もなくやってのけた。  けれど同じく一流の使い手にとっては、そんなもの大差ない。変装しようが全裸になろうが、人間が変わるわけではない。変わるのは外見だけで、中身まで変えるのは至難の技なのだ。人間性というやつは、上塗りだけでは隠せない。鍍金(メッキ)はすぐに剥げてしまう。  だからと、変装も全裸も同じならと全裸を選んでしまった変人だが、それでもその友人の力は比類なきものだった。その友人をしても、人間性の変質は成し遂げられなかった。一流同士の化かし合いに、そんな小手先のトリックは通用しないのだ。  仮に中身まで別人に成り済ますことができたとしても、それだけでは別人にはなれない。  癖が残る、習慣が作用する、遺伝や本能が行動を支配し、経験や知識が行動を阻害する。見てきたもの、感じてきたもの、思考能力、判断能力、語彙や口調、言い回しにも、歩き方にも、為人(ヒトトナリ)というやつは漏れ出てしてしまうのだ。  キール六世は誰にでもなれる。
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