怪盗と僕

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 誰にでも、とは決して誇張やはったりではない。文字通りに誰にでもなれたのである。  何万という人間を束ねる社長、長年連れ添う夫、打率7割を越す野球界の怪物、死んだはずの偉人、ストリートチルドレン、医師、芸人、アナウンサー、テロリスト、囚人、警察、サラリーマン、果ては一国の国王に化け、数年に渡り執政を行っていたなんて話もあるそうだ。  そしてすべては怪盗行為に帰結する。  金品は元より──名声も盗む対象となる。  ある若者がミュージシャンを目指して上京、ストリートライブからメジャーデビューを果たし、有線大賞から何からあらゆる賞を総なめに、実はキール六世であったとカミングアウトをした、ということもあったそうだ。そんなものを盗んでしまってどうしようというのか、僕にはまったく理解できないが。  予告状もない、人も殺す。義賊というにはほど遠く、僕の思い描いていた怪盗像には合致しないが、それがキール六世がキール六世足るところらしい。
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