怪盗と僕

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 怪しく盗むと言うだけあって、いかがわしいというか、いやらしいというか、まあ要するに卓越した、超越した先を垣間見た、凡俗には及びもしない才覚の持ち主であることには、これっぽっちも疑いない。  きっとあのとき。  キール六世に今際の淵に立たされたあのとき、もしなにかしらの歯車が噛み損なっていたら、紙切れを破くように容易く、赤子の手を捻るよりももっと簡単に、僕など灰塵に帰していただろう。 「神様に愛されてんだよ、ヨーイチは」  やったじゃねえかと、マルミラは僕の頭をぽんぽんと叩く。  気の滅入る話だ。  一方通行の愛ほど困るものはない。  だったらまず前提として、そういう事件に僕を巻き込まないでくれ、神様さんよ。 「お前はきっと世界を救うために選ばれたんだと思うぜ、私はよ。私はお前に救われた。お前がいなきゃ、私はこんな素敵に生きちゃいなかった」  嘘偽りなく、正真正銘に、正面切ってそんな大胆な台詞を、冗談でもなんでもなく言える人間なのだ、マルミラは。  ああもうほんとに決まってる。
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