怪盗と僕

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 空の弁当箱を広げたまま話し合いでもないだろう、差し当たって質問コーナーの前に、僕は弁当箱の片付けにかかる。  とピーマンが片隅に残っているのに気付いた。もう食欲は失せてしまったので、僕は食べる気にはならないが、しかしこのまま残しておいて饐(ス)えさせるのも忍びない。 「はい、あーん」  僕はピーマンを箸で摘まむと、目の前に立つマルミラの方へ向けて持ち上げた。  マルミラが一歩下がる。  僕は立ち上がり、手はそのままに一歩前に。  マルミラがさらに一歩下がる。 僕はさらに一歩前に出る。  マルミラが下がる。  進む。  下がる。  走る。  後ろ向きのまま逃げる。  すげえ走る。  後ろ向きのまますげえ逃げる。  分身されたり姿を消されたりし始めたので、途中から追いかけっこはご破算になってしまったが、よくわかったことがひとつ。 「もしかしなくてもピーマンが嫌いみたいだな」 「そんなもの人間の食べ物じゃない」  落下防止のフェンスによじ登って警戒するマルミラ。  まあ好き嫌いがどうこうと押し付ける人間でもないので、ピーマンはありがたく僕が食べた。
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