怪盗と僕

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「お前……まさか昨日の」  マルミラだ。  目の前にいるのは間違いなくマルミラ。  いくらそれらしい言動や仕草をしたところで、これが別人である気は微塵もしない。本人を目の前にして、その本人がいつもと違う口調や言い回しをしているだけ。演劇を思わせる、あるいは配役を与えられた俳優をドラマで見るような、その人物に割り振られただけの役柄を演じる。  別人がマルミラの振りをしているのではない──マルミラが別人の振りをしているような。  笑う。  笑い声も、笑い方も、全部がマルミラで構成されている。一部の違和感もない。 「あのマルミラ・ジュークの変装を完全無欠にできるのなんて、世界広しと言えど俺くらいのもんだぜ!」  そう言ってまた豪気に笑う。  やっぱりマルミラだよな、どこもかしこも。むしろ役柄を演じているような雰囲気があって、それがちょっと不格好ですらある。それもまた演出なのだとしたら、凝りすぎだろう。完全なまでにマルミラになってしまったというのか。
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