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やらないうちから尻込みしてどうする。
よし、ダメでもともと。
僕は魔法を使うために、後ろ手ながら指先に集中を――マルミラがちらりとこちらを見る。切れ長の眼がより細く目力を強め、言葉なき威圧を僕に向ける。
意気を気取ったのか。
末恐ろしい。
実行に移す間もなく案1は没に終ってしまいましたとさ。
いやまだまだ。
次は案2だ。
これは原始的な方法だが、あちらにはチャンタクさんがいるのだ、公算は零ではない。試してみる価値はある。
少しだけ体を丸め、下腹部を気にするような目配せと、もじもじと股間をすり合わせる足の動き、そして苦しみや耐え忍ぶ印象をもたせるような悲痛な声色を混ぜ、言い放つ。
「ああっ、さっきから我慢していたけれど、もう膀胱が限界だ。アラートが8ビートで鳴りまくってやがる。このままいくと尿が超反応を起こして爆発しちまうぜ」
わざとらしくならないよう普段通りの口調を心がけながら、独り言のように、されど彼女たちに届くくらいの声量で、僕はさりげなく言った。我ながら中々の名演技だ。
食事とトイレ休憩はどんな誘拐犯でも考慮するところ。さすがにここでしろなんて言うほど彼女たちも鬼ではないはずだ。若干の疑いこそあれ、アクションは起きる。ここから話を逸らせる自信はある。さあ、反応するんだ子羊たちよ。
「…………」
「…………」
スルー……だと!?
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