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「人間というのはなヨーイチ、いみじくも柔らかくできてるんだぜ? 股関節を鍛えりゃ股割りだってY字だって思いのままさ。ほら、自在に肩を脱臼させられる奴だっているじゃねーか。どんな狭い隙間だって通っちまうやつもいるし、首が270度回せるやつだっている。だからよ、ボールくらいいける」
「たしかに……、意外とだいじょう……危ねえ! 誰一人として伸縮性に富んだやつがいなかった!」
「ちっ」
「そこ、舌打ちしない!」
なんという華麗な口車。
危うく許容してしまうところだったぜ。
冗談はさておき、とマルミラは言う。
構えていた二本の竹刀。素振りとでも空を切る。素振りでは聞けないような轟音に、空気が焦げるにおい。あれを、あの速度で刺そうというのだろうか。
ちなみにチャンタクさんはというと。
「えへ、えへへへへへ」
愉悦が抑えきれないようで、フルーレの先っちょを、念入りに撫でくり回していた。
やべえ、いろいろやべえ。
だがあのボールに比べたらなんてことはない。それくらいならいいか。などと、愚かにも思ってしまう自分がいたことに、僕は驚いた。
なんてことだ。これでは完全にあちらのペースじゃないか。この流れでは本気で未体験ゾーンに入ってしまいそうだ。なんとかして流れを断ち切らなければ。
おかしな空気感で蕩けた頭を振り、僕は意識を戻す。
これですべてが止まるわけではないが、せめて少しでも遅延してくれれば。
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