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「おばけが出るらしい」
意を決し、僕は静かに口を開いた。
「体育用具室にはお化けが出るらしい」
さすがに観念しただろうと思われていた僕がいきなりそんなことを言い出したので、突然のことに二人とも動きが止まる。
「しかもただのお化けじゃない。ピーマンのお化けだ。今まで食べてもらえなかったピーマンたちの怨念が集合体となり、人々の口の中に無理やりピーマンを詰め込んでいくというそれはそれは恐ろしいお化けなのだ」
我ながら無理のある設定だとは思う。こんなもので怯むような奴は限りなくゼロに近いといってもいい。けれどそれがいい。限りなくゼロに近いかもしれないが、それはゼロではない。
ストレートで分かりやすいほうが、伝わるやつがいる。
何を言ってるんです。
チャンタクさんは噴き出して言う。
「そんな子供だましみたいなお化け聞いたことないですよ、ねマルミラさん」
「ああそうだな」
いつの間にか距離が二メートルほど離れたマルミラは無表情で同意をした。
「あの……マルミラさん、遠いです」
「そんなことないぞ」
いつの間にか距離が五メートルほど離れたマルミラは無表情で否定した。
「ごめん、ちょっと急用が。あの、ほら私、隕石ハンター養成教室いかなきゃいけないから」
「なんですかそのおもしろ教室!?」
いつの間にか距離が果てしなく離れたマルミラは、「じゃそゆことで」と表情を変えることなく小走りのまま、すたこらと体育用具室を後にした。
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