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さすがの僕でも、こんな恥態を衆目にさらされて平常心いられるほど、心が強くない。むしろひどく脆弱だ。大した強度はない。ちょっとした衝撃で粉々になってしまう――そんなのは御免だ。だから僕はきっと喜び勇んで言うことを聞いてしまうだろう。
でもクルウさんならいざ知らず、まさかチャンタクさんが人を籠絡するような真似、するはずないよね。
「しないですよ、そんな、シガラキさんをなんて……えへ、えへへへへへ」
「まず笑うのをやめようか」
チャンタクさんが……、あの純心だったチャンタクさんが。
毒気にやられてしまった。あの包帯だか眼鏡だか双子だか、よくないものに毒されて、チャンタクさんがねじ曲がってしまった。なんということでしょう。
「ふふ、冗談です」
くるっと回って、小悪魔っぽく笑う。
僕は呆気にとられる。
「大丈夫です、このことはマルミラさんも知りません。クルウさんに託されたのは昨日のことで、昨日のうちに失敗したことになってますから。だからこれは私の心の中に留めておきます」
フィルムを取り出す。
取り出して、かざして見せる。
「あ、でも」とチャンタクさんは続ける。
「ときどきは、ちゃんと私の言うことも聞いてくださいね」
は、はは。
恫喝されるよりも大変なことになってしまったようである。
でもよくよく考えると、マルミラがこんなことをしようと言い出して、僕がマルミラを追い払いでもしなければ、こんな状況にはならなかったのじゃないだろうか。
もしかすると、彼女達よりもチャンタクさんのほうが恐ろしいのかもしれない。うん、あんまりおざなりにしないでおこう。いや決して怖いとかそういうのではなく。
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