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「シガラキさんもそう思いますよね」
僕が聞いていたことを前提にしてのチャンタクさんの問いかけ。
「あ、う、うんそうだね」
と相槌だけはしてみたり。
なんとなく相槌は自然と出るタイプみたいなので、勘繰りがないところを見るときっと上手いこと相槌を入れていたのだろう。よかった。聞いていなかったなんて言ったら失礼だし、当たり障りのない常套句で返すのが上等だ。
そして、どんな話をしたのかは記憶に残っていないまま、それで話は終わった。
申し訳ないなあ、つい考え事をしてしまっていた。
別に聞きたくなかったわけじゃないんだよ。いや本当だとも。決してチャンタクさんに恐れを感じて自分の殻に閉じこもったとかそんなんじゃないんだよ。うん。聞き返さなかったのだって、本当に粗相のないようにと思っての行為で、聞いてなかったってばれたら何されるかわからない、とか怯えたわけじゃないんだからね!
「で、さっき言ってたことですけど」
片づけを終え、なにもかもがこれで終わりという最後に、チャンタクさんが僕に向かって、再確認とでも投げかけた。
「さっき?」
僕が聞いていなかった時の話。
本当ならばただ相槌を打っていればよかった。
けれど何故か、僕の中の第六感的な何かが、聞き返さなければいけないとアラートを発していた。
「ほら、私がシガラキさんの家に行きたいっていう話です」
はい?
僕の家に?
僕の家に来る?
誰が?
「ホントにいいんですよね? 行っても」
目をキラキラさせたチャンタクさん。
愉悦じみたそれではなく、心からの喜びを思わせる。表情、そして動作。一挙手一投足をもって、チャンタクさんは嬉しさを滲ませていた。
どうやら僕は上手いこと相槌を入れすぎたらしい。
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