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腕によりをかける?
腕を捻じ曲げてどうしようというのだろう。
「うん……大丈夫」
チャンタクさんは小さく気合を入れる。
どういうわけか一層顔が火照っているように見えたけれど、それは一瞬のことだったのでおそらく見間違いだったと思う。そして「じゃあ明日を楽しみにしててください!」と言って、やる気に満ち満ちたチャンタクさんは、勢いよく体育用具室を飛び出していった。
「ふう、台風一過って感じだな」
僕は嘆息する。
まったく、短い間にいろいろなことがありすぎたな。
怪盗のこと、マルミラのこと、そしてチャンタクさんとのこれから。
ああどうしたもんかな。
まあ考えていても仕方ない。
とりあえず前に進まなければ始まらないか。
そして僕は立ち上が――れなかった。
「縛られてるの忘れてた」
世界に興味がないにもほどがある。
まさか自分の置かれている状況を忘れてしまっていたとは。
ためしに火などだして焼き切ってみようと思ったが、案の定なにか細工が施されているようで、僕にはどうにもできなかった。おいおいどうしろってんだよ。ただ縛られてるならまだしも、菱縄縛りなどというやけにマニアックな恰好になっているこの状態で、もし誰かに見られでもしたら。
「ええい、ままよ!」
僕はその場に倒れこみ、尺取虫よろしく体をUの字に伸縮させ、出入り口に向かって移動を開始する。
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