刑事と鳥籠

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 どのような経緯でチャンタクさんを我が家にお招きする運びとなったのかは、上の空だった時分のことにつきまるっきり不明であるが、普段の僕ならばそんなお誘い一も二もなく断っていた。  了承してしまうなんて、ほんとに僕はどうかしていた。  マルミラや他の誰にもそれは断ってきたことで、チャンタクさんの僕をどうにかできる権利の行使時でさえ、それだけは絶対に駄目であると念押しを忘れなかったというのに、まさかこんなにもあっさりと、今までの努力が水泡に帰してしまうとは。  遊びに。チャンタクさんが僕の家に遊びに来る。  その解答では不十分だ。  領域への進行、いや迂闊にも何も知らないまま飛び込んだとしたらそれは、自ら餌となりに猛禽の檻に飛び込む愚行だ。  本来であれば届かない。  常日頃から怠惰にも、日がな寝転がってばかりいる彼女は、手を伸ばさなければ何処にも届かない。当人は手を伸ばすことすらが面倒だと言って何もせず、だから世界は今日も平和なわけだ。  だというのに。  彼女が億劫にしているその距離を、地雷源までのデッドラインを自らで詰めてやろうなんて、さながら変態に春を与えるような、タキシードの紳士にブランコを与えるようなものだ。無警戒に水を得た魚は、よからぬところで本領を発揮する。  まあまず自分で歩けよ、と言いたくもなるのだが、快楽と享楽と堕落を貪る、ネガティブにポジティブな、後ろ向きに前向きなあの災厄の塊のような存在がそれで隔絶され、世界が割と助かってることを鑑みれば、彼女にはこれからもずっと怠惰であっていただきたいとは思うのだけれど。
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