序章

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「やーい、へたっぴ! ダッセー!」  幼稚園の頃、何をしてもうまくいかない彼は、いじめっこの暇つぶしだった。 「あなたは鈍くさいわねぇ」  小学生の頃、母の一言で家も学校と同じ気持ちになる。 「こんな問題も解けないのか!」  どう勉強しても上がらない成績に、苛立ちがあった。 「お前みたいな足手まとい、いなきゃよかったのによ」  負けず嫌いな親友から、ついに言われた台詞。  彼は、全てのことが満足に出来なかった。  速く走ることも、基礎の力を身につけることも、人と仲良くすることも。  彼は、そんな自分を悔やみ、憎み、そして毎日に絶望した。  自分は駄目な人間なんだ。今まで言われてきたように、生きるべきじゃないのかもしれない。  だけど彼はこうも思った。 ――ここまで人の役に立たない自分が、何のために生まれたのか知りたい。  それは、軽い現実逃避であり、自己の精神を保つために生まれた唯一の〝生きる理由〟だった。  なんてことはない。自分で決めたのだ。 ――それがわかるまでは、絶対に死なない。  彼、野々平千歳(ののひらちとせ)はある意味、最も生きることに期待した人間だった。
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