空回りする夜

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 ──脱衣所で溜め息をつきながらも、風呂に入って身体を洗った俺は替えの服に着がえる。 「ひどいめにあったよ」  まさか、岸野と仲良くしようとした手前で、トイレでバッタリ遭遇してしまうなんて。  俺だって覗くつもりとかなかったし、そもそもカギが壊れて使えない状況だったのだから、ここまでひどいことしなくてもいいのではないだろうか。 (まあ、見知らぬ家に来て、見知らぬ男と一緒に住むことになって、緊張しているのはわかるんだけどな……)  それでも芳香剤はないだろ。芳香剤は。  匂い消すの大変だっていうのに。  今でも、完全にラベンダーの匂いが取れたというわけではない。  これ、明日までに取れるよな……?  心も身体もブラッキーにして、俺は脱衣所から頭をうなだらして出る。  無駄に胸元からラベンダーが香るのが、更に気分を暗くさせた。 「どうしたん? そんなに暗い顔して」 「日和さん」 「いや、お母さんって呼ぼうよそろそろ」  脱衣所から出た矢先、丁度リビングから出てきた日和さんと顔をあわせる。
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