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「うーん、私も雫とは、前にあっちの両親の家に遊びに行ったときと、預かるときに顔をあわせたぐらいだからなぁ」
「岸野がどういう子か、よくわからないと」
「んー、そんな感じ?」
夢も希望もありやしない。
俺はしゃがみこんだまま頭を抱えると、「あーでも」という日和さんの一言が続く。
「雫ってさ、両親の前じゃ素直な子だったって聞いたよ? だからさ、悪意を持とうにも、それなりの理由無しには抱かないんじゃないかな?」
「えっと、遠まわし過ぎるのでもっと簡単に言うと?」
「雫と純粋に仲良くなりたいって気持ちで接すれば、あっちも応えてくれるんじゃないかっていうこと。雫もさ、真剣な気持ちには邪険に扱わないと思うからさ」
「おお……」
流石魔女という名の看護士様。言うことに説得力がある。
俺はゆっくりと立ち上がると、岸野のいる二階にへと顔を上げる。
「もし、雫に悪いこととかしてしまったのならさ、素直に謝ること。素直な女の子には素直な気持ちでじゃないと伝わらないよ?」
「わかった! ありがと、日和さん」
「あーでも──っておーい?」
善は急げ、思いたったら吉日とも言う。
日和さんの横を通り過ぎて、俺は早速岸野の部屋にへと足を赴けた。
「あいつ、相変わらず人の言葉を最後まで聞かないんだから。浅い川も深く渡れ、急いては事を仕損じるっていうのに」
俺が階段を上っていく途中、日和さんがなにかを言っていたようであるが、目の先の課題『岸野と仲直りする』の前に、耳を傾ける余裕はなかった。
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