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けど、やはりどうして岸野は、これほどまで仲良かった両親と離れてまでこの町に残ったのだろう。
両親と別れ、新しい家で不安なことも多いに違いない。
けれどそこまでして、岸野はこの土地に残りたいと思ったのだろうな。
「なにしてるの?」
「っ!?」
後ろからナイフを差し向けるように尖った声がこちらにかけられる。
その際、俺は驚きのあまり手元を狂わせてしまう。
──ガシャーン
写真立てを机の上に勢いよく滑り落としてしまう。
「あ……」
「ご、ごめん」
写真立てのガラスは粉々になり、四散する。
振り返った岸野の顔は、泣きそうなものだった。
机の上で粉々になった写真立てを、呆然と眺めている。
「お母さんの……お母さんのくれた写真立て……」
「ごめん岸野! 俺──」
驚いて手元が滑った?
言ったところで、わざとじゃなかったとしても、これは許されることではない。
岸野の表情を見るからに、これは彼女にとって大切なものであったみたいだ。
そしてそれを俺が──壊したのだ。
口をつぐむ俺。
岸野はカーペットの床にペタンと足を崩した。
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