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あまり話したい話ではなかったが、岸野とのすれ違いの件も余すことなく説明した。
この人、俺が隠し事をしてもすぐ暴いてくるんだよね。
「あらあら、由紀くんってば、岸野さんが用を足してるときに一緒にトイレをしようと迫ったり、岸野の部屋、クンカクンカ! とばかりにお部屋に入ってしまったのですね?」
「人の話聞いてましたあなた!?」
「それで、関係を築き直すためにも、プレゼントでも贈って仲直りを謀ろうと」
俺のツッコミなど華麗に無視を決めて、みつな先輩は話を進める。
粗方、話の整理がついたところで、「ふっ」と軽笑をつきつけられた。
もしかして、あまり良い策ではなかっただろうか?
「いいんじゃないですか? それでも」
「へ?」
ダメ出しが飛んでくると思いきや、まさかの一言。
まさかの賛同の言葉をかけられるとは思いもしなかった。
「岸野さん、結構難しそうなお方ですものね。けど、かわいいものが好きだとか、思いのほか普通の女の子だったりする。それに素直ですものね。ストレートでいいんじゃありません?」
「えっと、よく岸野のこと知ってますね? 岸野とは、一体どういう関係なんですか?」
「うっふっふ、話してもいいですけど、今じゃないといけません?」
「え?」
右腕の手首の上を、左手でトントンと叩いて意味深に笑ってみせるみつな先輩。
(腕?)
その仕草が腕時計を意味指していることに、気がつくのに数秒かかった。
俺はポケットから校則で禁止されている携帯電話を取り出すと、その時刻を見る。
クラス発表まで、残り5分。遅刻寸前であった。
「ヤバッ!? もう時間が……って、みつな先輩もういねえ!?」
「ほーら、早く急ぎましょうー?」
いつの間にか前方遠くで招き手を振るみつな先輩。
その声に焦りなどはまったく無く楽しそうなものであった。
「朝からダッシュかよ!? はぁ~」
溜め息をひとつついて、先輩を追いかけるように駆け出す。
嫌われたり踏まれたり走り出したりと、忙しい朝から俺の1日は始まったのだった。
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