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ソレイユの更衣室はお店の二階にある。
お客さんは入れない店の奥には、更衣室に続く階段があって、俺はがっくりとした気持ちで登って行った。
(みつな先輩のスキンシップは度を知らないからな。毎度のことながら困るよ)
自分が魅力的な人だってことを知っているのか知らないのかはさておき、男の事情など無視して距離を近づけてくるから難儀ものだ。
難儀なのは距離のほかにもあるけど。
心の奥底で笑いながら、俺は更衣室の扉を開く。
扉を開けば嫌でも気持ちを入れ替えて働かなければいけない気にさせてくれる。
この瞬間から、岸野との一件を頭から切り離そう。そう思っていた。
思っていたのだが……
「え……?」
「えっ?」
扉を開ければ、聞いたことのあるか細い声。
見覚えのあるショートヘアー、右頭のサイドテールの女の子。
家では一文字かへの口である少女、けれども今このときは驚きのあまりかポカンと小さく口を開ききっていた。
「き、岸野!? え、なんで!? どうしておまえがソレイユに!?」
「っ!?」
岸野の顔がみるみる紅潮していく。
それもそのはず。岸野は学園の制服に手をかけていて、これから着替えようとしていたからだ。
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