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岸野の大きな瞳は徐々に涙目へと移り変わり、あわあわと口を震わせていく。
その表情には覚えがあった。
……昨日のトイレの一件で垣間見たものだ。
「ご、ごめんっ、着替えるんだよな!! 出ていくよ!!」
岸野の手が足元にある自分のカバン、その中にある重い教材に触れる前に俺は即座に踵を返す。
バタンと勢いよくドアを閉めるなり、俺は更衣室を背にもたれかかった。
(なんで? どういうこと? 岸野がソレイユの更衣室にいるって……)
ここは部外者は立ち入り禁止だ。
だけど岸野はここにいた。
それどころか、制服を脱ごうと手にかけていたではないか。
これらのことから導き出されるのはひとつの答え。
(嘘、だろ? そんなことって)
ヴゥゥゥゥン。ヴゥゥゥゥン。
解を導き出すと同時にバイブレーションが振動する携帯電話。
振動間隔からしてメールのようだ。
ポケットからブツを取り出すと、差出人の欄には『みつな先輩』の名前が。
メールの中身を開いてみると、内容はこうだった。
『言い忘れていましたけど、今日から新しく“岸野雫”さんがソレイユの仲間になりました。みんなで仲良く働いていきましょう。ね? 由紀くん♪ サプライズ大好き:奈々川みつな より』
「ははっ……はは……」
みつな先輩、このサプライズは驚けませんよ……
意味もなく乾いた笑みを浮かべて天井を仰ぎ見る。
携帯電話を片手に、俺は茫然自失となるしかなかったのであった。
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