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ふと、新しく思い浮かんだのは、岸野の意外な一面であった。
「そういや、岸野の笑顔、かわいかったな」
今日最も岸野に衝撃を与えられたのは、彼女が笑顔で接客できていたことであった。
無論、飲食店業界なら出来て当然なのはわかっているし、岸野に対しても驚くのは失礼なことだと承知なのであるが。
俺個人、岸野が笑うイメージなど持っていなかったので、意外に感じてならなかったのだ。
(それになんだろう、岸野ってむしろ笑っている方が自然っていうか、あっちの方が様になってるよな)
家で見せていたあの無口無表情こそが、無理をして作った表情なのではないかと、そんな気がするのだ。
「お待たせしました。由紀くん?」
一通り今日の岸野の振る舞いを思い返していたところに、みつな先輩が裏口の扉を開けてやってくる。
「おっと、お疲れさまです、みつな先輩。そんなに待ってませんよ」
ほんとはだいぶ待ったのだけど、紳士ぶって俺は笑顔でそう答える。
女の子には男には理解できないほど時間が必要なときがあるのだ。寛容な心が大事である。
「あら、あえて30分待たせたんだけどそう答えてくれるだなんて、嬉しいです」
「わざとだったのかよ!?」
俺の紳士は即座に崩れ去る。
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