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まだまだ寒さの厳しい1月。この都会の繁華街は日も暮れ始め、寒さがよりいっそう増しているにも関わらず、大勢の人間で賑わっている。
「寒い寒い。翔、マフラー貸して」
「無理」
「いいじゃん、別に」
「無理」
俺の名前は江崎翔(ショウ)。社会人五年目のサラリーマンだ。
「うわー、なんて冷たい」
黙っていると隣を歩く、割と黒に近い茶髪の男が「何か言えよ」と小突いてきた。
このおしゃべりで色黒の背の高い男の名前は吉本拓真。大学生時代からの友達だ。
「もういいよ。とりあえず早く行こう。凍えて死にそう」
拓真は濃いグレーのロングコートに手を深く入れ、肩をすくめた。
「とにかく面倒くさい。この時ほど付き合いってものが嫌な時はないよ」
翔もぼやきながら黒のロングコートの襟を正し、マフラーの位置を整える。
今日は拓真と仕事帰りに普段世話になっている店の新年の挨拶まわりをする。
二人はそれぞれ違う会社で働いているが、接待で使用する店が同じため、ここ数年一緒に回っているのだ。
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