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曇天の空はゴロゴロと稲光を轟かせていた。暗い森の中を懐中電灯で照らしながら、辺りをキョロキョロ見渡し竦み足で進む子供がいた。
森を一瞬光が瞬く、そのあとに耳を塞ぐ程の爆音がした。子供はその場でしゃがみ込み両手で頭を覆う。
「帰りたい。……もう帰りたいよぉ」
震えた声でそう言うと、地面を見ていた子供の目に下駄を履いた足が見えた。見上げてみると白い服に赤い傘をさしていた少女が立っていた。
「君、どうしてこの森に?」
少女が尋ねた。
「蝉を捕ろうと追い掛けていたら、気付いたらここに……」
子供はまた地面を向き、足を寄せ三角に座った。
「君、名前は?」
少女が尋ねると、子供はうつむいたまま「しんじ」と呟いた。
少女は「しんじ君ね」と呟くと、しゃがみ込みしんじの肩に手を当てた。
「ならすぐに帰らないといけない。人の子がこの森に迷い込んだと知ったら彼らが何をするか」
「彼らって?だれ?」
「私の友達よ。ちょっとおっかないけど。さぁ立って、森の入り口まで案内してあげる」
しんじは数秒黙り込んだ後、すくっと立ち上がった。目には涙が滲んでいた。少女はくすりと笑い、しんじの手を引いて森の入り口に案内した。ポツリポツリと雨が降り始めていた。
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