2人が本棚に入れています
本棚に追加
「子供の頃の私はさ、そんな世界に憧れていたのよ。いつか私にもあんな風にワクワクドキドキするような出来事が待ってるのかなぁって」
一子に言われてふと自分の子供の頃の思い出が想起する。
確かに私も子供の頃は、ロボットを操縦して悪の組織から地球を守るヒーローになるんだ、なんて夢を描いたもんだ。
「何それ、きもい」
「おい!」
「あはは、冗談よ」
一子は悪戯に笑ってまたベンチへと腰を下ろした。
「でも気付かされちゃうのよねー。現実にはそんなものないんだってさ」
「そうだな」
「だからさ、生きるのって詰まらないなぁーって思っちゃうのよ」
相変わらず一子は笑顔のままだが、さっきまでとは違って私にはどこか寂しそうな笑顔に見えた。
だけど仕方がないだろう。
フィクションはどこまで行ってもフィクションのままで、そこいらの作家が頭の中に思い描いた虚像に過ぎないのだから。
私達はこの世界で、この世界なりの楽しい事や幸せを見つけるしかないんだよ。
言ってやると、一子を納得のいかないような顔をして、
「……そーなんだけどさぁああ」
オーバーリアクション気味にベンチの上で仰向けに倒れた。
「あーあ、何か面白い事でも起きないかなぁ」
ベンチからはみ出た足を交互に上げ下げしながら一子は言う。
「面白い事ねぇ」
それならいっそ、オヤジ狩りをする若者に制裁を加える正義の味方にでもなってほしいもんだ。割とマジで。
「ヤダ」
即答かよ……人助けをする旅の話はなんだったんだ。
やれやれと言いたげに溜め息を零し、私は新しいタバコを取り出して火をつけた。
一子はその場で寝るつもりなのか、目を閉じて沈黙している。
まったく、何で唐突にこんな話をし出したのやら。
一子の心境は分からないが、でも私は一子の話に少しばかり共感していた。
確かに、確かに漫画のような出来事が起きたなら…………人生退屈しないのかもしれないな、と。
最初のコメントを投稿しよう!