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「やれやれ、またか……」
私は口に咥えたタバコを手に取り、ぴんと指で弾いて飛ばした。タバコは回転しながら宙を舞い、静かに地面へと落ちて転がる。
「ぐぇっへっへ」
ゲスな笑い声だ。目の前にいる男が下卑た微笑を浮かべながら、私の捨てたタバコをぐりぐりと捻じるように踏みつけた。
「なぁ、オッサン……ひぇへ、金くれよ金」
男は私を睨みつけながら潜めたような声で言う。
私は気を引き締めるようにきゅっとネクタイを締めた。
どうやら私は今、オヤジ狩りに遭っているらしい。
しかしながら、私の心は至って冷静だった。恐怖や動揺といった類いの感情はピコ単位とて感じてはいない。
むしろ、このシチュエーションに私はうんざりとしていた。
それもそのはずである。このオヤジ狩りに手を染めた若者達、否、畜生と私はことごとくエンカンウントするのだ。
その頻度たるや、ほぼ毎日と言っていいだろう。
全国のオヤジ狩りを嗜んでいる若者に私の顔写真がばら撒かれているとしか思えない確率である。
一日に二度絡まれる日だって珍しくないのだ。そりゃうんざりもする。
これだけオヤジを狙うハンターが世の中に蔓延っていると、現代の義務教育では道徳の時間を削ってカツアゲの極意でも学ばせているんじゃないかと思ってしまうな。
まぁでも絡まれてしまったものは仕方がないか。まんまと金をくれてやるつもりがない以上、何とかするしかないだろう。
私は自分にしか分からない程度に小さな溜息を吐き、素早く辺りを見渡した。
ここは二つの大きなビルに挟まれた細い路地裏である。
私に許された道は二つ。しかし大通りに繋がる道は男によって塞がれていて、もう片方の先にはフェンスが設けられている。
フェンスは乗り越えられない高さではないが、登っている間に捕まってしまうだろう。
つまりは袋のネズミというわけだ。
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