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だが、逃走経路が断たれたところで別に問題ではなかった。
何故なら、この阿呆が袋小路に追い詰めたと思っているサラリーマンは、ネズミなんて生易しいものではないのだから。
私にとって逃走とは保身にあらず。ただ相手を思って穏便に済ませようとしたに過ぎないのだ。
「まったく」
私は持っていた鞄をビルの壁に立てかけるように置き、静かにスーツの袖を捲った。
「くひひ、オッサンよぉ、やる気かよ」
野郎は相変わらず下品な笑い声を上げている。
馬鹿な男だ。私から戦う以外のコマンドを奪った事、後悔させてやる。
私が鋭く眼を飛ばすと、男から一切の笑みが消えた。私が戦いを選んだ事を悟ったのだろう。
「オッサン、やめておきな、後悔するぜ。大人しく金を出せば許し──」
「黙れ。さっさとこい」
男の戯言を遮って私は挑発する。この手の馬鹿はこれで単調に殴り掛かってくるからな。
案の定、私の挑発に青筋を立てた男は勢い良く襲いかかってきた。
「上等だ! うるぁぁぁぁああ!」
まるでイノシシだ。ふんと鼻を鳴らして私も身構える。
有難く思え、これは課外授業だ。道を踏み外したガキを私が叩き直してやる。
「サラリーマンを舐めるなぁあぁぁぁあッ!」
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