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ついでに性格も行動もガサツであるというオプション付き。
本人曰く、やらないだけで料理はできるし、外面は最低限よくしてるし、掃除や洗濯はやってもやってもキリがないので限界が来たら一気にやるの、と述べた。
料理できてもやらなきゃ意味はないし、外面だけ良くても仕方ないし、掃除や洗濯に関しては、お前の限界は一体どこなんだと言いたくなるけどな。
「ふん、いいさいいさ。加齢臭まき散らす素朴なオッサンなんかに好かれたくないですよーだ」
一子は言い返して愛らしくべーと舌を出した。
とは言いつつも、私は一子を話し相手としては評価している。
気兼ねなく話し合える存在が近くにいるというのは便利なものだ。向こうも私に遠慮なく愚痴を漏らすし、そういう間柄としてなら良い女と言えるだろう。
そういう間柄としては、な。
適当に転がった缶を拾い上げ、私は吸っていたタバコを中に捨てた。
いつの間にか隣に座ってベンチに凭れていた一子は口にタバコを咥えながら何やら夜空を見上げている。
それに釣られてか、私もふと空を見上げていると、
「……ねぇ、タカシゲ」
不意に一子が私の名前……高山しげるから勝手に捩ってつけた愛称を口にした。
「なんだ?」
返すと一子はぴょんっと音がしそうな感じでベンチから立ち上がり、私に背を向ける。
そして、
「なんか、生きるって詰まらないよね」
突拍子もない事を言い出した。
「急に何を言い出すんだ、お前は」
しかしネガティブな台詞とは裏腹に、一子の声はどこか楽しそうだった。
それから一子は両手を広げると、フィギュアスケートの真似ごとのようにつま先立ちでくるりと半回転し、私に目を向ける。
月明かりに照らされて露わになった一子の表情は、台詞じゃなく、声のテンションと比例して相好を崩していた。
「私さ、子供の頃に漫画を読んだのよ」
漫画? まぁ子供なら漫画の一つや二つも見るだろう。
「それでね、それは仲間と協力してモンスターを退治したり、人助けをしながら長い旅をする物語でさ」
「うむ」
「空も飛べるし、魔法とかもババーンって出せちゃうのよ! 凄いでしょ?」
自前の効果音に合わせて大袈裟に両手を広げる一子の姿を呆れたように私は見据えた。
私より若いといっても一子は二十四歳。良い歳をした大人が無邪気な様で何をしているんだか。
でもそんな事は関係ないといった面持ちで一子は話を続けた。
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