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『木の葉舞うところに火は燃ゆる
火の影は里を照らし
また木の葉は芽吹く』
「はっ、字余りも糞もねぇじゃねえか。下手くそな歌。」
男は鼻で笑った。
確かにこの歌は俳句とかそういう類いではないから無理ないだろう…
「だが、なかなかいぃ歌じゃねぇか…木の葉は永遠にあり続けるってか。」
男は頭をかきながら、照れ気味に呟いた。
「ありがとうございます。」
嬉しかった。
異世界でも、火の意志を美しいものと見てくれる。
私もそれがあると、言ってもらえた、火の意志の事を…
「しっかし、木の葉っうのは変じゃねえか?普通桜とかだろ。」
上の桜を見ながら男は言う。
「いいんです。
不器用ながら皆は守って行くから木の葉なんです…」
「皆だと…?」
しまった…
「喋りすぎましたね。
私はこれで、いい歌が詠めるといいですね。」
あてはないが、面倒な事になる前に去ろうと男に背を向ける。
だが男は私の腕をつかんだ。
「おめぇ、名はなんてんだ?」
「もし…また会うことがあったらその時に…」
するりと男の手から抜け、男の元から去った。
異世界で自分の存在をあまり知られるわけにはいかない。
私は存在しないのだから…
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