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俺はどこまで近づいていい?
どこまで触れていい?
どこまで我慢すれば大切にしていると言える?
隣を歩く加奈の手を見ながら考えた。
「ほっくん、どうかした?」
心配そうに俺の顔をのぞき込む加奈から急いで目をそらした。
「いや、何でもない」
付き合って一年、俺たちはキスやハグをしたことがない。
手を繋いだことすらない。
毎日一緒に帰っているし、休日は普通にお互いの家で遊んだりもする。
そういう雰囲気だってなかったわけじゃない。
でもだめなんだ。
俺は彼女を大切にしないと。
「ほっくん、最近何かおかしいよ。部活が忙しいの?」
「んー、まぁね。試合も近いし」
「そうなの?見に行ってもいい?」
「うん」
やったー、なんてうれしそうにはしゃぐ加奈は俺なんかには不釣り合いだ。
吹奏楽部の部長で、性格も良くて顔もかわいいんだ。
それに比べて俺はバスケ部のしがない一部員で、特別男前でもない。
だから、大切にしないと。
もんもんと考えながら歩いていると、もう加奈の家の前だった。
「ほっくん」
加奈が俺の袖をつかみ、目を閉じた。
俺は加奈の肩に震える手を置き、少し屈んだ。
彼女の唇まであと5センチ。
そして臆病な俺はそこで呟いたんだ。
「早く家に入りなよ。風邪、ひいちゃうだろ」
加奈はゆっくりと目をあけ、微笑んだ。
「ありがとう、ほっくん」
ドアを閉じる直前の彼女の目から涙がつたっていたのは、きっと気のせいだ。
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