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「ん? なんだ?」
少年が引き止めた少女の方を振り返る。
「せめてお名前を……」
少女が少し俯きながら少年に問う。
「ザッシュ・バスタード……君は?」
少年は名乗ってから少し間を置いて、少女に名を聞き返した。
「私ですか……? リフィア・ヴァレステッドと申します」
「そうか……じゃあリフィア、俺そろそろ行くわ。またな」
「あっ、ちょっと待ってください!」
リフィアと名乗った少女は、立ち去ろうとするザッシュと名乗った少年を再び呼び止めた。
「……? ……どうした?」
ザッシュは再びリフィアの方を振り向く。二度も引き止められたため、若干困惑気味の表情だ。
「どこに行かれるんですか?」
「ああ、ちょっと“ギルド”の方に……」
リフィアの問いに、ザッシュは思い出したように答える。
「奇遇ですね、私もギルドへ向かっている途中なんです。ひょっとしてザッシュさんもギルドに加入するんですか?」
「ああ。てか入らないと仕事受けらんねぇし」
ザッシュは小さく頷いた。ギルドとは同業者同士の情報の共有・技術や地位の向上・保護を目的に組織された集団で、同業者への仕事の仲介を行っている場合も多い。
ザッシュたちの言うギルドとは“冒険者ギルド”のことで、洞窟や古い塔、廃屋敷などの探索、賊や魔物の討伐など、危険を伴う内容の仕事が多い。説明はこれくらいにして――
ザッシュはリフィアを暫くの間じっと見つめ、数秒経ってから彼女の方へと右手を伸ばした。
「……一緒に行くか?」
「はい!!」
ザッシュのその言葉にリフィアは満面の笑みを浮かべ、差し伸べられた右手を握って元気よく返事した。
「じゃ、行こう」
ザッシュとリフィアはギルドへと歩みを進めた。
――“最強の雑種(Mighty Bastard)”の物語が、幕を開ける。
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