平和記念日

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 Y氏は『一万人』と聞き、驚くと同時に恐怖した。 「まずいな。いつも以上に、準備を整えておかないと」  Y氏は窓枠や床にも記念行事に必要な催しを施す。 「明日は二階で過ごすことになりそうだな」  そんな呟きを漏らしながら、Y氏は釣ってきた魚を水で洗いラップでくるむと冷蔵庫にしまった。  記念行事は一日だけだ。一日ぐらいなら魚も腐らないだろう。  結局、その日の午後は明日に備えた準備に費やされてしまった。  明日は世界的な日、平和記念日。どこの会社も学校も休みとなっている。とは、いえ、誰も遊びに行こうとはしない。いや、遊びに行ってもいいのだが、身の安全が保証されない。だから、だいたいの人はY氏のように家に閉じこもっているのだ。  翌朝、Y氏は目覚まし時計に起こされた。起きてすぐに、彼は昨日の準備の再確認をする。  二階へと続く階段には痛々しいトゲが突き出た虎挟みに、家の出入り口には有刺鉄線が張り巡らされている。発電機は常時、二階に置いてある。食料や水は前日のうちに運んでおいた。  テレビの電源を入れて、片耳にはイヤホンを通してラジオの音が入ってきている。状況は常に変わる可能性があるから。一時も、目を離せなかった。 『皆さん、本日は平和記念日です。この日を乗り越え、世界平和を持続させましょう』  人工合成の音声によりメッセージがテレビ、ラジオから淡々と流れていた。この日は、放送局でさえ、誰もないのだ。運営は全て、コンピューターが取り仕切っている。  そして、テレビから平和記念日という言葉と、それに至る人類の愚かな歴史が何回が放送された後、画面が切り替わった。コンピューターがカメラを通して、どこかの光景を映し出した。 (そろそろか・・・)  Y氏は身を乗り出して、画面に映る平和記念日、その行事に参加する人々の顔を見る。見ていると、イヤな気分になってきた。  記念行事に参加する人々は誰もが平和そうな顔をしていなかった。金に汚く、自分の身だけを守って戦争を起こそうする、自分が良ければ他人がどうなっても構わないといった、形相がずらりと並んでいた。  前日からテレビでは彼らの経歴をどうしていた。誰もが許されない犯罪を起こしたり、この平和な時代を台無しにしようと目論んだ者。彼らには一時間ほど前に、一種の興奮剤が投与されていた。
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