平和記念日

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 興奮剤の効果は覿面である。薬を投与された者は、知的な行動がとれなくなり獣の如く暴れることしかできなくなるのだ。  Y氏は息を呑んで、昨日、雑貨屋で購入した小銃を握り締めた。  町のサイレンが一斉に鳴り出した。  よいよ、記念行事の始まりだ。サイレンと同時に、犯罪者である連中が閉じこめられていた檻が開かれ彼らは野に放たれた。テレビ、ラジオでは彼らが、どこにいるのか常に放送され続けた。  もし、彼らがY氏の敷地に侵入することでもあれば、庭に仕掛けた地雷が爆発する。玄関にだって戸を開ければ手榴弾が爆発する仕掛けを施してある。それでも、防ぎきれず家の中に入ってくるようなら購入した小銃で撃ち殺すまでの話だ。  平和記念日と銘打っているが、その実情は戦争の引き金に成りかねない連中を公開処刑する日である。平和を守る為にも、平和を実感する為にも、収容された犯罪者に凶暴性を与えて解き放つ必要があった。この記念行事を一刻でも早く終わらせる為にも、犯罪者を全員殺さないといけない。殺しきるまで、行事は終わらないのだ。  殺しきるのに最低一日はかかる。長いところでは、一ヶ月もかかったところもあるのだ。今年は参加者も多く、更に日数がかかることが予想された。  Y氏は冷蔵庫にいれた魚が無事であることを祈りながら、犯罪者に銃口を向けるのであった。  結局、平和記念日の行事。それが終わったのは、十日経った頃であった。電力が落ちるということはなかったが、冷蔵庫は荒らされ中身は台無しになっていた。  一応、犯罪者による被害は申請すれば武器の回収と共に政府から補償金が下りる仕組みになっている。平和記念日を忘れていた自己の責任ではあるが、来年は同じ被害に遭わないように鍵付きの冷凍庫でも購入するべきかとY氏は本気で考えていた。  数日が経ち、町中から硝煙と血生臭さが消えると、Y氏は再度、川に行って魚を数匹釣り上げた。それを天ぷらにしてX氏へとお裾分けに出向いた。
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