指輪

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…12月になった。 肌寒い朝、俺は、鏡の前で、自分の身嗜みを、もう一度、チェックする。 緊張のあまり、昨日は、眠れなくて…朝方、少しうとうとしただけ。 こんな朝は、大抵、頭が、ぼおっとして、頼りないのだけれど、今日に限っては、違っていた。 シャワーを浴びて、頭も、体も、シャッキリとさせると、髭をそり、髪を梳く。 真っさらな下着に、真っさらなワイシャツ…。 クリーニングのビニル袋を破って、プロポーズした日に着ていたスーツに、袖を通す。 「…縁起担ぎしすぎかな。」 ネクタイを、キュッと締め、俺は、よし!と、気合いを入れる。 居間の茶箪笥の上に、並べてある写真立ての前で、俺は…。 「父さん、母さん、今日は、俺と沙也加の結納なんだ…。 直接、見せられないのは、ちょっと残念…。 だけど、精一杯、頑張ってくるから。後押し、頼むよ。」 そう、語りかけて、ちゃぶ台の上に、置いてある包みを抱えて、家を出た。 ピンポ~ン♪ 俺が、チャイムを押したのは、小川先輩の実家。 「…おはよう、斎藤。」 「先輩、おはようございます。」 玄関から、先輩が、顔を出す。 「…とりあえず、入れよ。寒いから。」 「はい…。」 実は、結納を納めに行くのに、小川先輩のご両親に、力を貸してもらうことに、なったんだ。 結納なんて、形式だけだから、しなくても構わないと、沙也加の両親は、言ってくれたんだけど、やっぱり、ケジメだし、沙也加のためにも、キチンと出来るだけのことをしてやりたくて…。 かと、言って、改めて、仲人を立てるとか、大層だし、部長に、貸しを作るのが、嫌だったんだ…。 悩んでいたら、先輩が、助け舟を、出してくれた。 『俺と郁美が、やってやれば、いいんだけどな、貫禄ないだろう…で、親父に、相談して、頼んでみたら、乗り気なんだ。』 「…おはようございます。あの…今日は、よろしくお願いします。」 「大丈夫だよ。先方とは、一応、段取りとか、相談して、決めてあるから、心配しないで。 …いい一日にしよう。斎藤君。」 「はい!」
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