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「…仕事納めまで、後2日です。ラストスパート、一丸となって、みんな頑張りましょう!…では、お開きということで、みなさん、お疲れ様でした!」
幹事の挨拶で、忘年会は、終わった。
時間は、まだ、午後8時…まだ、宵の口だ。
飲み足りない人達は、二軒目に、足を向け、歌い足りない人達は、カラオケ店に、なだれ込む。
「眞知子さんは、どうするんですか?」
「私ですか…どうしましょう…。」
「娘さんが、心配ですか?」
「…はい、少し。」
「やっぱり、優しいですね。眞知子さん。
じゃあ、私と、お茶をする時間も、ないですかね?」
「…それくらいは…あります。」
主任の香山とは、付き合って、3年になる。
真琴の耳のことも、前の結婚相手との離婚の原因も、全部知っている…。
その上で、私に、結婚を申し込んでくれているのに、私は、いい返事が、出来ていなかった…。
何一つ、文句も言わないで、私を支えてくれている。待っていてくれる、奇特な人…私には、勿体ないくらいだ。
駅に近い喫茶店か、カフェで、珈琲を、飲むことにして、二人並んで、歩き始めた。
少し歩いたところで、私は、立ち止まってしまった。
「…眞知子さん?」
向こうから歩いて来たのは、見たこともないくらいに、優しく明るい笑顔で、隣を歩く、若いスーツの男性に、話しかけている真琴だった。
「…真琴…。」
ふっと、視線を変えた真琴は、母に気付いた。
どうしようかと、動揺しているのが、離れていても、手に取る様に、わかった。
眞知子…あなたは、どうしたい?
きっと、あの男性は、真琴の彼氏よ。
さあ…あなたは、どんな顔で、真琴に対応するの?
母親の顔?…それとも、恋をする同じ女としての顔?…それとも。
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